【ハッピー・エバー・アフター:涼音・ミーナ・ウッドベル生存】
※二重カギカッコは中国語だと思ってください
……ここは中国臨海部の某大都市。あの飛行機での事件から、1日が経とうとしていた。
女給『……はい、では、3名さまで、優待券のご利用ですね。順番が来たらお呼びしますので、お外でお待ちください』
ウッドベル『かしこまりました。どうもありがとう』
1人のヨーロッパ系の男が、料理店の受付で、女給とやりとりをしている。彼は「ウッドベル」と呼ばれた男。悪名高き中国系秘密結社「パンダの手」の一員……だった人物だ。
涼音「あなた、うまく席は取れた?」
ウッドベル「あぁ、20分もあれば呼ばれそうだ。人気の店だから、少し待つけど、いいかい?」
ミーナ「だいじょーぶ! ミーナ、うさ丸といいこにできるよ。おなかすかせたいから、たいそうしちゃう!」
店外のベンチでは、彼の恋人……涼音がにこにこと待っていた。2人の間の娘、ミーナは、イチニイチニと元気いっぱいに体を動かしてみせる。
ウッドベル「おいおい、そんなすぐにお腹はすくものじゃないよ……やれやれ、これもあの【優待券】のおかげだな」
彼は胸ポケットから小さな2つ折りのカードを出し、しみじみとながめた。涼音たちに見えないように、こっそりと。
『お前はもう「パンダの手」の外だ。家族と食事でも行くといい。店には私が話をつけた。このカードを見せればお得に食べられる。
家族を大事に。リー・メイリンより』
……さっき外で会った、元上司がくれたものだった。彼女のサポートもあり、彼はうまく組織を抜けられた。しかも食事までおごってもらえたのだ。
ミーナ「パパーっ、なにをよんでるの? ミーナにも見せて!」
ミーナがのぞきこもうとして、彼は慌ててカードを隠す。
ウッドベル「お手紙だよ。さっき現地の友だちがくれたものだ。中国語で書いてあるから、ミーナには読めないぞ?」
涼音「それにミーナ、パパのお友だちとはいえ、ひとの手紙を勝手に読んだらダメよ? プライバシーの侵害だわ。
そうそう、この前私、不思議な手紙をもらったのよ。まだあったかしら?」
涼音が思い出したように言った。
……タイムリープ装置「ループ&プール」の影響か、涼音は未来のミーナが書いた手紙を手に入れていたのだ。「両親が事故で死んでしまう」という、不吉な世界線のもと書かれたものだった。
タイムパラドックスを防ぐために黙っていたが、こうして自分たち2人は生きているし、帰国したら正式に婚姻届も出せそうだ。もう話しても構わないだろう、と涼音は思っていた。
涼音「あった、あった。この手紙なんだけどね、ミーナが……あっ!」
一陣の強い風が吹き、ピンク色の封筒は空に舞い上がった。涼音は手を伸ばしたが、封筒はどこか遠くへ飛ばされていってしまった。まるで、彼女たちの不安や不吉な運命を吹き飛ばすかのように。
ミーナ「ママ、おてがみ、とばされちゃったね。なにがかいてあったの?」
ミーナがきょとんと首をかしげる。
涼音「……ミーナとパパとママが、いつまでも仲良く幸せに暮らせますように、って書いてあったのよ。
さぁ、行きましょう! もうお店に入れるわ」
涼音はミーナの肩を軽く叩き、せき立てた。ちょうど、女給が3人を席に案内しにきたところだった。
……これから3人は、平凡ながらも幸せな生活を送っていけることだろう。
〈おしまい〉