オリジナルマーダーミステリーの紹介

オリジナルマーダーミステリーを綴るブログです。

エンディング2

【友だちがいるのさ:龍聖と桜が両方生存】

 

……ここは中国臨海部の某大都市。あの飛行機での事件から、1日が経とうとしていた。

 

ここは、街の中央公園。淡い黄色の明かりをともす街灯は、どこか穏やかな雰囲気をかもし出し、人々は思い思いにくつろいでいる。中心には大きな木がそびえ立ち、そこによりかかるようにして、派手な服装の青年が立っている。人を待っているようだ。

 

桜「ごめんな龍聖。待ったか? コーヒー買ってたら遅くなっちまった」

 

そこへもう1人、黒い服を着た青年がやってきた。両手にはコーヒーの紙カップを持っている。龍聖、と呼ばれた青年は、木の近くで大きく手を振った。

 

龍聖「桜! 来てくれて良かったよ。悪いね、こんなところに呼びつけてしまって……

桜「いや、謝らなくていいよ。腹割って、話すつもりなんだろ? 前みたいに、正直に話そうぜ」

 

龍聖と桜は、それぞれカップをとって、木の根元に腰かけた。

 

桜「それにしても、お前が無事でホッとしたよ。お前ときたら、なぁ」

龍聖「うん、本当に桜には心配かけたと思ってる。黙ってて悪かったよ。きみを試すようなマネまでしてしまって……

 

龍聖はうつむき、ばつが悪そうにコーヒーをすする。

 

桜「そういうとこだよ、お前の悪いくせ。前も言ったけど、たくさんのファンが、ホーリードラゴンを待ってくれている。もうお前は1人じゃないんだ」

龍聖「そうは言っても、ファンは僕のことなんてわからないし、わかってもらうわけにも……良くも悪くも、他人なんだからさ」

 

龍聖は首を振った。

バンドマンは、みんなに夢を与える仕事だ。抱え込んだ悩みをあれこれとうち明けても、困らせて、イメージを崩すだけ……龍聖は自分の気持ちと仕事との間でゆれ動き、心を病んでしまっていたのだった。

 

桜「龍聖、あまり強い言葉を使うなよ。ファン1号がここにいるんだぞ。お前のことなら何でもわかる、親友がさ」

 

なんてな、と顔を赤らめ、桜はぬるくなったコーヒーをぐっと飲む。

……龍聖は、事件当日のことを思い出していた。自分を気遣うばかりでなく、事務所の力まで使って、来てくれた桜……

 

回想の桜(――龍聖! 龍聖、おい、無事か?)

回想の桜(――友だちが困っているなら、助けに行くのは当然だろ!)

 

龍聖「そうだ、僕は大切な……きみの気持ちすら、すっかり忘れていたんだ。

ごめんよ、桜。今さら遅いかもしれないけど、本当に……

桜「だから、謝る必要なんてないって。俺だって、ちゃんと親友の気持ちを、汲んでやれてなかったんだぜ」

 

桜は首を横に振った。彼もまた、自分の不器用さのせいで、龍聖を追い詰めていたことを悩んでいた。とはいえ、龍聖も桜も助かって、結果オーライだ。

 

桜「じゃ、帰るまでは昔の俺たちに戻るとするか。景気付けにエビチリでも食いながら、とことん話し合おうや」

龍聖「そうだね。帰国してから、僕たちまたそれぞれのこれからを踏み出せば……あっ、ちょっと待ってよ桜! まだコーヒー飲みきってないのに!」

 

桜がゴミ箱に紙カップをぽいと捨てて、上機嫌で歩き出す。後を追う龍聖の目にも、どこかワクワクとした輝きが宿っていた。

繁華街に向かう2人の足取りは、まるで無邪気な子どもたちのようだった。

〈おしまい〉