【搭乗前の出来事:ミーナ編】
【RP:ミーナ、ウッドベル、涼音、字の文:別ミーナ】
――このフライトから、数週間ほど前のこと。
ミーナ「だぁれだ?」
ウッドベル「ふふふ。わからないなぁ」
ミーナとパパは、居間でふざけていた。
ミーナ「ヒント! パパがだーいすきな人!」
ウッドベル「じゃあママかな?」
ミーナ「ぶっぶー。せいかいは……」
ミーナは両手をそっと外し、振り返ったパパに笑いかけた。
ミーナ「ミーナでしたぁ!」
ウッドベル「ミーナだったのか! びっくりしたなぁ、パパ、気づかなかったよ!」
あははは、と幸せな笑い声が居間にこだまする。ミーナはこうやって、ふざけてパパやママを驚かせるのが大好きだ。
涼音「さぁ、さぁ、ミーナ。お遊びはお終いよ。パパが、出張に遅れてしまうわ」
ウッドベル「そうだ、そろそろ出なくちゃいけないんだったね」
パパはすぐさま立ち上がり、準備していた荷物をまとめる――これからしばらく、中国支社に出張だというのだ。
ウッドベル「じゃあ行ってくるよ、涼音、ミーナ……そうだ、ミーナにプレゼントをあげよう」
パパはカバンを開けると、ミーナにぬいぐるみを手渡した。垂れた耳と、眠そうな顔をしたうさぎのぬいぐるみ。
ウッドベル「ミーナ、ほら、かわいいうさぎさんだよ。パパがいなくても淋しくないようにね。良い子に、大事にするんだよ」
それからパパは、ぎゅうとミーナたちを抱きしめた。温かな涙が、ぽたぽたとミーナの肩に落ちる。よほど淋しいみたいだった。
◆◆◆
パパが出て行ってから、1週間後。
ミーナはママに子供用世界地図を見せ、楽しそうに聞いた。
ミーナ「ねぇママ、パパのはたらいてるまちって、チュウゴクのどのへんかな?」
涼音「そうねぇ……XX市って言ってたから、ここよ。中国でも一番大きい街なんですって」
ミーナ「うみのほうだ! ミーナたちも、そこへヒコウキでいくんだよね!」
ママは、世界地図の中国臨海部をくるりと指で囲む。
……実は2人は、パパに内緒で会いにいくつもりだった。幼稚園が長期休業だったことと、有給がまだ残っていたことが幸いした。
おまけにママはずいぶん前に、旅行カタログギフトを福引きで当てていた。パッケージツアーを使って、パパに会いにいくという。
ミーナ「ママってば、うれしそう! ミーナも、はやくパパにあいたいなぁ。うさ丸も、つれてってあげなきゃ!」
涼音「ええ、ママ、とっても楽しみだわ。さぁミーナ、いい子は寝る時間よ。先にお布団へ行ってなさい」
ミーナ「はーい! おやすみ、ママ!」
パパのくれたうさぎのぬいぐるみ……「うさ丸」を抱えて、ミーナは寝室へ向かったのだった。
……そして、当日。ミーナとママは、空港へ赴いた。
【搭乗前の出来事:桜・龍聖編】
【RP 桜 龍聖】
桜と龍聖は一日がかりで新曲記念イベントに参加し、忙しい日だった。午前中はアニメ制作会社との打ち合わせ、午後は作曲家ユニット「KUZUOとKUZUKO」との対談に、握手会まで。それもようやく終わって、事務所に戻ってきたところだ。
龍聖が帰ろうとしたところ、桜は彼を呼びとめ、小さなミーティングルームに通す。
桜「悪いな、お前だけ呼び止めちまって。
それにしても今日のイベント、無事に終わって良かったな。KUZUKOさんたちも喜んでたぜ、『龍聖くんの歌詞には、若者らしい気持ちがよく描かれている。また一緒にやりたい』ってさ……」
龍聖「桜、そういう話はいいよ。僕だけ呼び出すってことは、何かしら大事なことなんだろ? いつもみたく、正直に話してくれ」
龍聖は、桜から目をそらさず言った。
桜「わかったよ……なぁ龍聖、ここ数日のスケジュールを念のため確認していいか?」
龍聖「あぁ。ほとんど予定の変更はないが、あさってとしあさってはダメだ。
どうしても外せない私用がある。ほかのメンバーにも、各自で練習していてほしいって伝えたよ」
桜「ふぅん。じゃあこれは何だ?」
取り出したのは、1通の茶封筒。逆さまにし、中身を見せる。龍聖の表情がくもった。
桜「ベース担当の井原勇義って、いるだろ。今日はお前と同じバッグを持ってきてて、お前のを間違えて持ってこうとしたんだと。
そしたら、これが出てきたんだよ。飛行機のチケット……日付は3日後だな」
龍聖「……返してくれないか? 大事なものなんだよ」
龍聖の顔がくもる。桜は物おじせず、さらに言葉を続けた。
桜「あのな、龍聖。最近、無理しすぎてるだろ。俺には分かる。メンバーとぎくしゃくしてることも、楽屋でぼうっとするときが増えたことも。
このバンドは今年が大事なんだ。お前ひとりでもスケジュールに穴空けちゃ、マネジメント部の俺たちだって困るし……」
龍聖「スケジュール、スケジュールって、何だよ! 結局は金目当てで、僕なんかどうでもいいのか?
……きみだったら、わかってくれると思ったのに!」
桜の静止も聞かず、龍聖は桜からチケットをひったくり、事務所を飛び出した。
……そして当日、2人は別々に、空港に赴いた。